考えながら行う練習は、やっぱり楽しい。そして考えの深め方が、やっぱり違う。
それが、私・高橋里恵がレアル・マドリードファンデーションの選手向けのバスケットボールクリニックに関わってきてつくづく思うことです。
2017年以来スペインからレアル・マドリードファンデーションの現役コーチを日本に招聘して、選手クリニックを開催してきましたが、毎度新しい発見があり、私も楽しく参加しています。
「とにかく参加してもらえればその良さはわかる!」と言ってきたところもあるのですが、この原稿ではその凄さ、素晴らしさを、ちょっと興味があるなとお考えのチーム・指導者の方々に向けて、超主観的にお伝えしてみたいと思います。
このクリニックではレアル・マドリードファンデーションの現役コーチがみなさんのチームを訪問します。チームのレベルは問いません。
指導者講習のカリキュラム紹介の記事でも書きましたが、レアル・マドリードはすべての子どもたちに平等な可能性があることを意識し、教育的なアプローチを取ることを大事にしているからです。
ですから、初心者の方から経験者まで指導することが可能です。
クリニックは英語で行うため、通訳も一緒にチームに伺います。
練習は、U12以下は最大12名、U15以下は最大15名までです。
練習中の選手の待ち時間をなくすことを目的としています。コーチの目が選手に届くようにする意図もあります。
また、練習の中では仲間や対戦相手をリスペクトすることの大切さが自然と伝わるように工夫するなど、レアル・マドリードファンデーションが大切にしている価値観(Value)も学びます。
レアル・マドリードファンデーションのコーチは、事前に学年と性別を把握した上で、練習メニューを準備してやって来ます。ある時のコーチは80ページにも渡るメニューを携えていました。練習がはじまると、まずコーチから課題が与えられます。最初のメニューは、選手たちが今持っている判断能力や技術・体力でできるものでスタートします。
風船やトランプなど様々な道具を使うこともありますが、体育館の床の赤や緑の線だったり、体育館にあるもの全てが道具となります。
コーチが見て、選手がみんな課題をクリアしたら次の課題が与えられますが、課題は一足飛びになることはなく、順を追って一つ一つ増やして進んでいきます。
前の課題で学んだことを活かすと、今の課題ができるようになる。
課題と課題の関連性に選手が自ら気がつくことを大事にしています。
例えば1対1のゲームをする場合でも、時間や決められたコートの範囲などの制約条件が与えられます。お互いの勝敗を数えながら取り組むように、というような指示が出ることもあります。1対1の技術的な課題に向き合うだけではなく、周りを見ながら考えながら練習をすることになります。
選手はかなり頭を使って練習に取り組むことになります。そして、そんな練習を楽しんでいます。
レアル・マドリードファンデーションのコーチは、選手が持っている判断能力、技術、体力を少しづつ向上させていきます。急に難しい練習や、その選手・チームに合っていない練習はおこないません。
そうすることで、選手は集中して安心して練習に取り組めます。
人数が少ないことで、順番がすぐに回ってくるので、集中して繰り返し練習に取り組めます。
メニューの中には、技術的な部分だけではなく、レアル・マドリードファンデーションが大切にしている価値観(Value)の要素も巧みに組み込まれています。
一例ですが、「リスペクト」の練習のご紹介です。
2人1組になってオールコートで1対1の練習をします。最大15名なので、7組の2人組ができます。コートの端から端まで1対1をし、最後はシュートまでもっていきます。逆側の列に戻る時に、コーチは選手に課題を与えます。「お互いが良かったところを話しながら戻ってきて」と。約束はネガティブなことは言わないこと。
最初は、なかなか上手く相手の良かったところを言葉にすることができません。しかし人数は15人なのですぐに順番が回ってきてしまいます。それを繰り返すうちに、選手は相手の良かったところを言えるようになり、言ってもらった選手は、自分が良かったところを知ることができます。
例えば、1対1のオールコート練習では、ディフェンス選手にこんな成長のプロセスが見えたことがありました。
1回目は、1対1をすることに精一杯になってしまい相手の良いところが見付けられなかった。
実際、言葉にしても上手く言えなかった。
例: 抜かれちゃった。スピード速いね。
2回目、相手の良いところを見付けないといけないとの意識から、1対1を始める。
息が上がっているときに考えるのは難しいけれど、1回目よりかは相手を見ることができたので、
短い言葉で良いところを伝えることができた。
例: ドリブルの強弱があったから、ついていけなかった。
3回目は1対1で相手を見るということにも、言葉で伝えるということにも慣れてきたので、
1対1の最中でも顔を上げて相手が見れるようになってきた。
例: フロントコート側でドリブルチェンジした時に、ドリブルに緩急があったから、
どっちにくるか迷って足が止まってしまった。(自分のできなかったところまで伝えれている)
その後の、ドリブルチェンジが早くて突き出しのスピードも早かったからついていけなかった。
すごいね!
慣れてきたところで、もう一度練習を行い、また別の練習が始まります。
1対1の技術的な向上と同時に、相手に対するリスペクトの気持ちを養うことにもなりました。
レアルマドリードの1つの練習時間は5分~7分ぐらいなので、すぐ次の練習に移ります。
このように練習が進み、選手には達成感と充実感がみるみる広がっていきます。
コーチとの間にも一体感が生まれ、選手はみんな笑顔でクリニックを終えることになります。